コラム

残業代トラブル!!「昨年クビにした従業員から未払残業代請求の内容証明が!」

2021/11/22

労使間のトラブルで最も多いのが不当解雇とそれをトリガーとする未払残業代請求の2つです。実務では、この2つはほぼセットみたいなものです。

勤務してくれている間は、おとなしかった従業員が退職する日が決まって有給休暇を消化中、あるいは退職後間もなく、突如として弁護士を代理人に立てて未払残業代請求の内容証明郵便を会社に送りつけてくることがあります。

私は、「内容証明が届いたら、まず会社の勝ちはありませんよ。」とよく言います。

不当解雇、残業代請求の案件で弁護士から内容証明が届いたら、相当高い確率で、「経営者側の勝ちはない」と思ってもらってほぼ間違いないです。

因みに、「未払残業代請求」というキーワードでネット検索してみてください。

世の中に「未払い残業代請求に強い弁護士」を自称している人がどれほどたくさん溢れているかが分かります。その多くが「相談料無料、着手金無料、成功報酬20パーセント」をうたっています。

いかに「未払残業代請求」が労働者側の弁護士にとって、〝勝つ確率が高い〟〝大きな市場〟であるかがお分かり頂けるかと思います。

それでは、労働者側の弁護士から内容証明が届いても、会社が大負けしないようにするには、どうしたらよいでしょうか?

あるいは、そもそも内容証明が来なくなるように予防するにはどうしたらいいでしょうか?


先に、結論を言いますと、

① 会社を守るツールとして就業規則等(労働者との合意)をデザインする。

② 会社に有利な事実を立証できるオペレーションの構造をもつ。

ことが大事です。

「未払残業代請求」は、会社を辞めるとき、辞めた後に起きますから、私はこれを「出口紛争」と呼んでいます。

その原因は、入り口に既に存在しています。

労使間の法律関係が始まるのは、雇用契約がスタートする時で、この時に条件を諸々合意(約束)しているハズなんですね。

ここでの合意・約束が 雇用契約終了までの間、お互いの権利義務を規律することになります。

ところが、合意内容が詳しく定められていない、とか曖昧なままであることが多いため、社長の意図とは違うところで、決着つけざるをえなくなってしまいます。

未払い残業代の点に絞って言えば、経営者の方が「うちはみなし残業手当(固定残業手当)を付けてますから大丈夫です。」と言うのをよく耳にします。

もっとも、そういう社長さんからその会社の「就業規則、雇用契約書、タイムカード、賃金台帳、出勤簿」などを拝見して未払い残業代の有無を確認してみると、「うちは未払い残業代はありません。」という会社に消滅時効にかかっていない分だけでも推計で○○千万円の未払い残業代が存在していることが多いです。

と言うのも、みなし残業手当(固定残業手当)の規定が就業規則でうたってあるだけでは、裁判になった時には会社に有利には通用しないからです。

みなし残業手当(固定残業手当)に関しては、労働基準法にも定めが無く、実務上の必要性から生まれたものなのですが、多数の裁判例が蓄積されて実務で有効とされるための要件(次の❶~❻)が存在していますから、これらの要件をクリアしている必要があります。

<ポイント>
❶ 賃金台帳にも基本給はいくらで、固定残業手当はいくらなのかきちんと分けて記録を残しておくこと

❷ 「○○手当(例えば、「営業手当」とか「役職手当」など」は、固定残業手当であることを明らかにしておくこと

❸ 設定された固定残業手当が何時間分の残業を想定しているのか計算式を明確にしておくこと

❹ 実際の残業時間が固定残業手当で想定されている残業時間を超える場合は、その差額を支払っていること

❺ 途中からの変更で労働条件の不利益変更にあたる場合には、個々の労働者の同意を得ておくこと。

❻ 上記の②~④までの事項を就業規則や雇用契約書に明記すること

私が見た限りでは、これらの要件を全て満たしている会社はほとんどありません。

厳密な意味での要件を満たすためには、就業規則の〝整備〟だけでは足りません。その〝運用(オペレーション)〟も大事です。

〝整備〟と〝運用(オペレーション)〟がクルマの両輪のようなもので、どちらかが欠けても機能しません。


専門家のサポートを得て、

① 会社を守るツールとして就業規則等(労働者との合意)を整備した上で、

② 会社に有利な事実を立証できるオペレーション(運用)の構造を維持することをお勧めします。

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