コラム

解雇トラブル!!「不良社員を辞めさせたら、不当解雇だと訴えられた!」

2021/11/22

労使間のトラブルで最も多いのが不当解雇とそれをトリガーとする未払残業代請求の2つです。

実務では、この2つはほぼセットみたいなものです。

例えば、次のような事例の相談をよく耳にします。

建設会社Aの従業員乙は、入社後2年経過するが、無断欠勤を繰り返したり、得意先に対して「タメ口」をきいたり、勝手に見積金額の変更に応じてしまったりと勤務態度に多くの問題がありました。

これまでA社の社長甲は、乙に対して、問題を起こす度に口頭で注意をしてきましたが、改善の見込みがありませんでした。

そこで、社長甲は、3月1日の時点で3月末日をもって自主退職するよう促しました。

乙は、いったんは退職を承諾して私物もすべて自宅へ持ち帰ったものの、その3日後になって弁護士から次のような内容証明が届きました。

それによれば、「A社が乙に対して行った解雇は無効であるから、乙には未だ従業員の地位があることの確認を求めるほか、未払時間外手当、慰謝料を支払うよう求める。」内容が記載されています。


この事例で、弁護士から「不当解雇は無効」という内容の通知が届いたことに違和感をお持ちの方も少なくないかと思います。

甲社長にしてみれば、「乙は、自主退職したのであって、不当解雇ではないはず・・・・」と言いたいところです。

ところが、甲社長は退職届の提出も受けていませんから、自ら退職したのか、辞めさせられたのかについては水掛け論となり、自主退職を立証出来ない会社が不利と言わざるを得ません。

また、甲社長にしてみれば、「たとえ解雇だとしても、乙には解雇されても仕方が無いだけの十分な理由がある。」と言いたいところです。

しかしながら、この点についても、上記の事例では、A社側には勝ち目はありません。

と言うのも、解雇には①客観的に合理的な理由(勤務成績不良や勤務態度不良など)と②社会通念上の相当性(解雇事由と解雇という処分との間にバランスがとれているか)が必要ですが(労働契約法16条)、少なくとも相当性を満たしているとは言い難いからです。また、就業規則上、解雇事由が具体的に明記されているかも問題となります。

因みに、裁判所は解雇の有効性をどのように判断しているか、と言うと、以下の要素を総合的に考慮して判断していると言われています。

① 当該企業の種類・規模

② 職務内容

③ 労働者の採用理由(職務に要求される能力および勤務態度がどの程度か)

④ 勤務成績・勤務態度の不良の程度(会社の業務遂行に支障を生じ、解雇しなければならないほどに高いかどうか)

⑤ その回数(1回の過誤か、くり返すものか)

⑥ 改善の余地があるか

⑦ 会社の指導があったか(注意・警告したり、反省の機会を与えたか)

⑧ 他の労働者との取扱いに不均衡はないか
  ( 山口幸英雄ほか『労働事件審理ノート』判例タイムズ社より引用)

では、A社の甲社長は、今後のことを考えた時に、不良社員との間で雇用契約の終了をめぐるトラブルとならないためにはどうすれば良いでしょうか?

出来ることなら形としては〝円満退社〟を目指して欲しいです。

「不良社員との間で円満退社?」という疑問を持たれたかも知れません。

社長から辞めて欲しいと思われるくらいの人ですから、本人にもそれなりの自覚があるはずです。交渉の仕方を間違わなければ、自主的に退職してもらうことは十分に可能です。   
 
社長:「辞めてください。」

不良社員:「じゃあ、辞めます。」

と口頭でのやりとりだけで済ませてしまうと、後で弁護士から不当解雇の通知を受ける余地が残ってしまいますので、必ず退職届を提出してもらい、受理した旨の文書も渡しておくことが大事です。

その際には、退職届けには本人の署名捺印があること、退職の効力発生日がいつか明確になっていることが必要です。

加えて、未払賃金の精算、預かり物の返還、離職票・源泉徴収票の交付、社会保険関係資格喪失の手続なども速やかに行なうことが大切です。

では、どうしても自主退職してもらえない場合に、解雇を有効に行なうにはどうしたら良いでしょうか?
ポイントとしては次のとおりです。

❶ 解雇理由を就業規則に明記しておくこと

服務規定はなるべく具体的に明記しておき、違反している事実が明白になるようにしておく

❷ 「客観的に合理的な理由」となる事実が存在したこと、解雇という処分が社会通念上相当であることが必要なので、勤務成績・勤務状況の不良が見られる度に始末書を取る、指導や教育、配置転換などの措置をとったことなどの記録を残しておく。

小さな服務規律違反でも見逃さずに、その度に始末書を取る、指導教育したことなどの記録を残しておく。

❸ 適正な手続きを踏む

・ 解雇通知を送付する。

・ 30日前に解雇予告しておくか、又は、30日分の「解雇予告手当」を支払う。

・ 解雇された従業員の求めに応じて解雇理由書を交付する。

不当解雇をめぐる紛争は厄介で、時間や費用・労力を消耗させられます。

ですので、私は、「何としてでも、退職届をもらってください。」と言っています。

辞めて欲しい従業員との契約を解消するための交渉の際に、過去の不行状を記した「始末書」を材料に会話すると、辞めてもらいやすいです。

そのためにも、会社にとって有利な証拠(始末書・指導記録など)を残しておくことが大切となります。

専門家のサポートを得て、
① 会社を守るツールとして就業規則等を整備した上で、

②会社に有利な事実を立証できるオペレーション(運用)の構造を維持することをお勧めします。

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