コラム

契約トラブル!!「そもそも約束したこと(契約)と法律ではどちらが優先されるの?」

2021/11/30

会社と従業員との間で、法律に書いてあることとは異なる内容の合意をしたら、どちらが優先されるのか?
というテーマです。

ズバリ言うと、約束(契約)さえ結んでおけば、どんな内容であっても、法律の規定を無視して従業員に対して拘束力を持たせることが出来るのでしょうか?
というテーマということも出来ます。

一言で言うと、最低ラインは、法律(強行規定)でガッチリとガードされていて、それ以外は当事者の合意に任されている(合意すれば法律に優先する)。

その他の合意されていない事項については、法律(任意規定)で定めたとおりとなります。

要するに

  強行法規 >  合意(契約)  > 任意規定


具体例で考えてみましょう。

労働基準法では、『使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。』と定められています(39条1項)。

では、会社と従業員との間で、次のような約束(契約)がある場合、どちらのルールが優先されるでしょうか?

社長:「うちみたいな小さな会社は、有給休暇を使って休まれたら、経営が成り立たないから、有給休暇は無いよ。」

入社予定者:「はい。分かりました、結構です。」

この場合には、会社と従業員との間における合意(契約)よりも、法律(労働基準法39条)の方が優先します。

つまり、社長と社員との間の約束よりも法律が優先して、年次有給休暇は法律上当然に社員に与えられていることになります。

では、次のような場合の合意は有効でしょうか?

社長:「うちの会社は、毎月のお給料だけで、賞与も退職金も払えませんけどいいですか?」

入社予定者:「はい。分かりました、結構です。」
  
賞与や退職金の支払義務について定めた労働法規(強行規定)はありませんので、この場合には、会社と従業員との間における合意(契約)が優先し、その合意内容は有効となります。

つまり、会社は、賞与も退職金も支払う義務はありません。

ここで、「強行規定」、「任意規定」という聞き慣れない言葉が出てきましたので、簡単に解説しますね。

法律の規定の中で、「当事者の合意よりも優先されるもの」、言い換えると、「当事者の意思(契約・合意)により変更することが許されていない規定」を「強行規定」と呼びます。

反対に、法律の規定の中で、「当事者の合意の方が優先されるもの」言い換えると、「当事者の意思(契約・合意)により変更することが認められている規定」を「任意規定」と呼びます。

経営者の皆さまは、日常、ほとんど意識されていないと思いますが、われわれ法律家は、常にこの

  強行規定 >  合意(契約)  > 任意規定

の関係に注意を払っています。

そうしないと、何が有効で何が無効なのかの整理が出来ません。


では、どの法律のどの規定が「強行規定」or「任意規定」にあたるのでしょうか?

残念ながら、法律そのものには、これは強行規定だとか、任意規定だとか、書いてありません。

大局的な見方をすれば、民法の契約に関する規定は概ね「任意規定」と言えるでしょう。これはローマ法の時代からの『契約自由の原則』に由来していると言えます。

それに対して、労働基準法や最低賃金法などの労働法規に定められている規定は強行規定だと言われています。


ポイントは、

・強行規定は、最低ラインなのだから、きちんと守らなければならない(これに反する内容の合意は無効)。

・強行規定に定められていない事項については、自由に定めて良い。

・何も定めておかなければ任意規定が適用されてトラブルなどが起きた際の判断基準とされる。

ですので、経営者の方にとって重要なのは、労務管理を行なう上で、労働法規=強行規定=最低ラインが何かを理解した上で、強行規定に定められていない事項については、曖昧なままにせずに、できるだけ合意をしておくことです(任意規定は、必ずしも会社にとって有利とは限りません)。

そうすることで要らぬ紛争の火種を残さず会社を守ることに繋がります。


労働法規で定めている強行規定の多くは、違反の効果として民事上無効になるだけではなく、懲役刑や罰金刑の対象となるものまでありますので、「知らなかった!?」では済まされません。

適切な労務管理は、会社の健全さそのものです!その土台がしっかりしていてこそ、本当の意味で経営に専念出来ます。

そして、会社に健全さをくれる「労務管理」は労使紛争の実務を熟知した専門家のサポートが必要です。

新着記事